International Jomon Cultuer Conferrence|縄文土器/土偶/貝塚/勾玉など縄文時代/縄文人の文化を探求する考古学団体 (▼△▼)/

■ 「ユネスコ世界遺産登録記念 北の縄文世界と国宝」展 阿部千春さんインタビュー③


ゲスト:阿部千春さん(北海道縄文世界遺産推進室 特別研究員)
聞き手:関 俊彦(国際縄文学協会理事)
2023年8月2日 北海道博物館にてインタビュー

※「ユネスコ世界遺産登録記念 北の縄文世界と国宝」展 2023年7月22日から10月1日まで北海道博物館にて開催。

:北東北の縄文遺跡群が世界遺産に登録されましたが、どのくらいの人々が遺跡群を訪れたかなど気になりますが、今後の課題は10年後、50年後へと世界遺産に携わる幅広い人材の育成が重要だと思います。具体的な取り組みなどがありましたらお聞かせ下さい。

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阿部:北海道博物館でユネスコ世界遺産登録を記念した「北の縄文世界と国宝」という展示会をやっています。私は函館市縄文文化交流センターなどでアドバイザーをやっておりまして、センターでは体験学習などを開催しています。海浜学習では海にはどういう生物がいるかを観察したり、海のゴミ拾いをしたり、漁協組合から許可をもらってウニを獲って食べてみるなどの体験学習をやっています。いまは函館の子供でも、生きたウニを割って食べる経験をしたことのある人はいないんです。ウニを割って食べることで、自分が生きる為にもう一つの命をもらうというこが感覚で分かるわけですよね。

その他に染物の体験もあります。遺跡の周辺に生えている四季折々の植物を使います。春はフキノトウや秋はクリとかで染物をします。こうすることで自然から贈り物をもらったという感覚を得られると思います。日本で食事を頂く際に「いただきます」と言いますが、これは命をいただきますということだと教えられてきました。縄文時代からもともと私たちは自然から命、食を与えられて生きているという感覚はあったと思います。それが今はスーパーのなかで野菜、肉、魚などがパックに入っていて、それをお金と交換しますよね。そうすると、それは命という感覚ではなく商品というような感覚になってしまっています。

自然に対する感謝があるから、お腹がいっぱいになるだけではなく、感謝の気持ちで心も満たされますが、今は商品のようになっているので、満腹にはなるけれども心が満たされることはないのかもしれません。縄文時代の生活に戻ることは出来ませんが、自分が生きる為に自然から贈り物をもらっているんだという感覚や、感謝の気持ちを持つことを「縄文」を通して感じてもらうことが非常に大事だと思っています。

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阿部:世界遺産になったからそれで終わり、ということではなく世界遺産教育というものを続けていかなくてはいけないと思います。世界遺産教育というのは二つあり、一つは世界遺産とは何かということです。世界遺産というと、世界中のなにかすごいものを集めるという感覚がありますよね。ユネスコが世界遺産を担っていますが、ユネスコの理念は、「紛争は人の心の中で起こるものであるから、心の中に平和の砦を築かなければならない」というものです。お互いの歴史や文化の違いをわからずに誤解を生んでいます。

世界遺産はそのユネスコの理念を体現するもので、「地球のなかにはいろいろな地域があり、それぞれに歴史・文化の物語が流れていて、そのすべてが貴いのだ」ということを伝えていく取り組みです。凄いものだけを集めるのではなく、各地域の先史時代から現代までのトピックスを集めて、それを世界の共有財産としていこということです。そういう世界遺産の理念を知ったうえで、「世界遺産を学ぶ」から「世界遺産に学ぶ」、縄文から何を学んでいくかということが次のステップです。人間は自然に生かされているという価値観、感謝をする感覚を持つことですね。自然があって初めて自分が存在するという感覚を持つことが大切だと思っています。

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阿部:縄文の信仰は何かということですが、貝塚というのは自然崇拝ですね。食べた動物の骨や貝殻、そこに人も埋葬されていて土をかけて火を焚いて儀式をしてということも行われています。もうひとつはキウスの大規模な周堤墓のように共同墓地がありますが、これは単純に分けると祖先崇拝ですね。一見すると両者は全く違う信仰に見えますが、基本的に彼らにとっては別物ではなかったのだと思っています。共通しているのは自分の存在の源になるものへの感謝の気持ちなのでしょう。自然がなければ食料を得ることができないので生きてはいけないし、祖先がいなければ自分は存在しないわけですよね。現代でも人が亡くなると仏教でお送りするし、正月は神社でお祈りしたりします。このような精神がずっと日本の心の中に生きているような気がします。

縄文を通して日本が持つ文化・精神性の大切さをもう一度思い出してもらいたいとも思います。そして、いま国際社会のなかで、地球環境についての関心が高くなっています。自然に対する感謝の気持ちや命を大切にする心というものを持ちながら10年過ごすのか、その気持ちを持たずに10年が過ぎるのかでは全く違う社会になると思います。縄文の世界遺産を通して、このようなメッセージを発信できる活動をしていくのが私の目標です。

:縄文人と比較されるのがカリフォルニアの先住民で、彼らはどんぐり、魚介類を主食としていましたが、定住をする人は少なかったです。縄文人は土器をはじめとして技や表現に独自性があり、素晴らしいです。これらを生み出す知恵やエネルギーをどう伝えるかが重要ですよね。

阿部:この展覧会を多くの人に観て欲しいですね。縄文は定住がひとつのテーマになっていますが、現代社会というのは定住社会の頂点にあって、そのメリットではなく、デメリットの方が見え始めてきています。だからこそ、この縄文1万年の生活というのを多くの方々に知って欲しいと思います。(終)

■ 阿部千春 北海道庁 縄文世界遺産推進室 特別研究員

函館市教育委員会、函館市縄文文化交流センター館長を経て、2015年より現職

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