International Jomon Cultuer Conferrence|縄文土器/土偶/貝塚/勾玉など縄文時代/縄文人の文化を探求する考古学団体 (▼△▼)/

■ 第6回国際縄文学協会奨学生 レポート Vol.3 吉田泰幸


London: 対極的なものたちのモザイク

『発掘から推理する』という本があるくらい、考古学というもっぱら発掘で得られた極めて断片的な資料をもとに考えを巡らす行為は、探偵や刑事が事件解決のために行う推理になぞらえることができます。最近の考古学は骨考古学とも言われるBio Archaeology、ミクロな痕跡の分析を行うArcheological Scienceが注目を集めているので、探偵や刑事ではなく『科捜研の女』のような科学捜査研究所の法医研究員になぞらえた方がいいかもしれませんが。

 探偵はいつもフィクションの世界で人気キャラクターとなっていて、アガサ・クリスティの生み出したエルキュール・ポワロやミス・マープルも有名ですが、最も根強い人気があり、元祖名探偵と言えるのはコナン・ドイルのシャーロック・ホームズでしょう。ロンドンのベーカーストリート・221Bに住んでいたことになっているホームズは、近年では現代版「SHERLOCK」として蘇り、主演のベネディクト・カンバーバッチとマーティン・フリーマンが忙しすぎてもう新シリーズは製作されないのでは、という不安をよそに、元日にはシーズン4に向けてのスペシャル版が放映されました。フラットにテレビがない私は同時刻に映画館で上映されたものを観に行きましたが。

 ノリッチからロンドンまでは電車で2時間ほど、Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures (SISJAC)主催、または関連のイベントがロンドンで行われることも多いので、ロンドンには月に1〜2回は出かけています。SISJACの連携機関である大英博物館やその隣にあるSchool of Oriental and African Studies (SOAS)に行くことが多いのですが、時間があるときはロンドンの街を歩いています。大都市らしく常に変貌を続けているロンドンは17世紀ロンドン大火直後のクリストファー・レンによる建造物が残る一方、現代的な建築もところどころに姿を見せるモザイク状になっています。テート・モダンからセント・ポール大聖堂を結ぶようにテムズ川に架けられたミレニアム・ブリッジ、タワー・ブリッジのすぐ近くにある半球状のロンドン市庁舎のあたりはある意味ロンドンの典型的な風景かもしれません。ミレニアム・ブリッジとロンドン市庁舎はともにノーマン・フォスターのデザインによるものです。彼の最初期の建築として著名なのはSISJACの連携機関であるUniversity of East Anglia (UEA)にあるSainsbury Centre for Visual Artsで、映画「アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン」では終盤、アベンジャーズの新しい基地として登場します。

 フェローシップ期間の1年の間、月に1〜2回通ったとしても、とても全ては見ることができないほど名所ばかりのロンドンですが、ここは訪れておこうということで、ベーカーストリート駅のすぐ近くにあるシャーロック・ホームズ像と、今はシャーロック・ホームズ博物館となっていているベーカーストリート・221Bを訪れました。ホームズ像は等身大以上のサイズの巨人と化しており、博物館は私を含むアジアからのお上りさんで大混雑でした。
 
ベーカーストリートに来たのは、すぐ近くにある大和日英基金で開催された現代アートの展覧会開催を記念したオープニング・イベントで、アーチスト・トークのお相手を務めるためでもありました。SISJACは日本藝術研究所の名のごとく、美術が主たるテーマの講演会やシンポジウムも数多く開催されるのですが、そこで出会ったキュレーターの方のアレンジで、アーチストとのトークに考古学者としての私が参加するということが実現しました。そのアーチストの展示作品の中に、縄文土器の「欠けた部分」に模造宝石・マーカサイトを配したものがあり、その作品との遭遇から考古学者としての私が考えたことをお話しし、会場の方々も交えてトークをしました。

 考古学者はモノを通じて何か抽象的なテーマに取り組むことを常としています。一方で、そのモノが何の因果か地中から掘りだされて、今のこの時代の社会に存在することの意味については、あまりよく考えません。また、土器や土偶をどう修復・復元するのかについても、漠然と何か修復法や復元の方法に唯一無二の正解があると思っていたり、先輩方から教えられた修復・復元法を無批判に繰り返している一面もあります。古いとは、あるいは古くなっていくとはどういうことかに興味があるというそのアーチストの作品にみられる縄文土器とマーカサイトのモザイクからは、上記のような考古学者のモノについての、あるいは修復や復元についての認識に強烈な疑問符が突きつけられているように強く感じ、私はそれを率直に言葉にすることによって、アーチストとの応答を始めました。

 イベントの前後には、多くのアーチスト、あるいはアート研究者にお会いしました。なぜ彼ら、彼女らはロンドンを目指すのか、SISJACのとある研究員は、お金が集まるところでアートは活気づく、だからニューヨークとロンドンがアートの双璧なのかもしれない、と言い、鋭い批評の存在も重要かも、とも付け加えられました。昨年12月にSISJACが開催したイベントで基調講演を行った、越後妻有トリエンナーレの発案者・北川フラムさんは、「アートは今では投機の対象となり、ハイパー資本主義に巻き込まれているが、地域とは友達だったはずだから」という動機で人口減が進行する地域でアートイベントを始めたと話していました。大和日英基金で出会ったアーチストも、行く先のないポストカードを扱う郵便局を瀬戸内海の小さな島に開局するという活動を行なっていて、それをロンドンに開局するのも今回ロンドンに来た理由でした。資本が集中するグローバルな大都市を必要としながらも、Eメール全盛の時代にポストカードを軸にした地域での活動も並行して行い、両極端を縦横無尽に行き来するアーチストの様子もまた、ロンドンにふさわしいのかもしれません。

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